
📍 シチュエーション
うちはピーク時に四人、他の時間は二人か三人で回している小さな店だ。一日の売上は中規模のチェーン店としては標準的な方で、一人欠けるとすぐにどこかが薄くなる。
そんな日の朝、スタッフ一人から発熱で休みの連絡が入った。代わりは確保できたが、来られるのは午後から。しかもその人は普段この店に入っておらず、閉店業務をほとんど知らない。教えながら回すことになる。
この時点で選択肢は二つあった。もう一人呼んで厚めに組むか、今いる人数で押し切るか。
呼べば人件費は増える。それに、教える側の手も取られる。慣れていない人を二人入れれば、教育の負担が倍になるだけかもしれない。そう考えて、押し切る方を選んだ。
実際の日中は、ギリギリだった。レジが二組並んだ段階で、売場側に人がいなくなる。棚の補充が後回しになり、夕方の一番売れる時間に、一番売れる商品が二列分空いていた。呼び込みは一度もできていない。
結果、その日の売上は予算に2千円届かなかった。2千円だ。何かひとつ、あと一手あれば届いていた数字だった。しかも閉店業務は押して、退勤は22時を回った。
❌ よくあるNG対応
- 「欠勤が出たから仕方ない」で片付ける。理由としては正しいが、それだと次も同じ判断をする
- 逆に「絞ったのが全部悪かった」と決めつける。呼んでいれば人件費が増え、教育の手も取られていた。呼べば勝てたとは限らない
- 数字が小さいからと振り返らない。2千円は差が小さいからこそ、判断のどこがずれたかが見えやすい
✅ 店長(SM)目線の推奨対応
まず、判断そのものは間違っていなかった可能性を残しておく。呼んでも届かなかったかもしれない。ここを決めつけると、次から反射的に人を呼ぶようになって、別の失敗が始まる。
やるべきなのは、当日の判断を責めることではなく、後から検算できる材料を残しておくことだ。残すのは四つでいい。
時間帯別の売上、その時の人数、取りこぼしの中身(レジ待ちか、品出しか、声かけか)、そして「呼ばなかった理由」。
最後のひとつが抜けやすい。人件費が理由なのか、教育の負担が理由なのか、単に忙しくて考える時間がなかったのか。理由が残っていないと、翌日には「なんとなく絞った」に化けてしまう。
この日でいえば、呼ばなかった理由は「教える手間が読めなかったから」だった。人件費ではない。だとすれば次に打つ手は、増員の判断基準を変えることではなく、閉店業務の手順を紙にしておくことの方になる。教える手間が小さくなれば、呼ぶ判断はずっと軽くなる。
なお「2千円のために人を呼んだら人件費の方が高い」のはその通りで、その日だけ見れば呼ばない方が利益は残る。それでも振り返るのは、一日の損益ではなく判断の精度を見ているからだ。しかも閉店が押して退勤が22時を回った分の人件費は、どのみち発生している。
記録は日誌の一行で十分だ。閉店後に「何時に何人、何を取りこぼした、なぜ呼ばなかったか」を一行。二十秒で終わる。
2千円という数字は、実のところ都合がいい。大きく外していれば要因が多すぎて特定できないし、届いていれば振り返らない。あと一手で届く日は、その一手を探す練習になる。
💡 一歩進んだ視点
カーネギーは『道は開ける』の中で、決断したらその場で実行し、二度と踏み直さないことを勧めている。考え直したくなるのは自然だが、それは新しい判断を生まず、不安だけを増やすという趣旨だ。
これは采配にそのまま当てはまる。あの日呼んでいたらどうだったかは、何度考えても答えが出ない。実際に呼んでいない以上、検証する手段が存在しないからだ。
店長の判断の多くは、この型をしていると思う。選ばなかった方の結果は、永遠に見られない。だからこそ、いつまでも考えられてしまう。
ここを手放せるかどうかは、意志の問題ではなく線引きの問題だ。検証できる問いと、できない問いを分けておく。「呼ばなかった理由は何か」は検証できる。「呼んでいたら届いたか」はできない。後者に入りそうになったら、そこで止めていい。
🌟 まとめ
- 当日の判断を責めない。呼んでいれば勝てたとは限らない
- 残すのは四つ。時間帯別売上・人数・取りこぼしの中身・呼ばなかった理由
- 「呼ばなかった理由」から次の打ち手が決まる。人件費なのか、教える手間なのかで対策は変わる