
📍 シチュエーション
店の雰囲気が、以前より良くなってきた実感があった。接客の質が上がり、売場に活気が戻ってきている。この流れを一度きちんと形にして返したい。そう思って、スタッフを表彰する仕組みを作ることにした。
最初に考えたのは、単純な形だった。「セールスMVP賞」という名前をつけて、自分と中間役(店長に次ぐ立場で、シフトや指導を一部任せているベテランスタッフ)の二人、合わせて三人がそれぞれ良いと思った一名を選ぶ。同じ人が重なってもいい。賞品は、余った限定商品を使う。
ところが、動かし始めてすぐに引っかかった。重複を許すと、選ばれる人が偏る。目立つ働きをする人は、どうしても複数から名前が挙がるからだ。そして「MVP」という一つの名前だけでは、何を評価されたのかが本人にも周りにも伝わらない。感謝を伝えたくて始めたはずが、「誰が一番か」を決める話になりかけていた。
❌ よくあるNG対応
- 「よく頑張っている人」という基準で選ぶ。選ぶ側の印象だけで決まるので、選ばれなかった人に納得感が残らない
- 賞を一つだけにして順位をつける。一人が喜び、残り全員が静かにやる気を落とす
- 発表だけして、受賞理由を共有しない。もらった本人も何が良かったのか分からず、次の行動に繋がらない
✅ 店長(SM)目線の推奨対応
最終的に変えたのは、三点だった。
一つ目は、重複をなくして、賞の名前を一人ずつ変えたこと。「気配り上手賞」「スマイル賞」「呼び込み賞」「頼れる対応賞」。何を評価したのかが、賞の名前だけで伝わる形にする。順位ではなく、種類にする。これだけで「一番は誰か」という構図が消えた。
二つ目は、受賞理由を全員に公開したこと。「混雑時以外は2〜3分ごとに呼び込みをしていて、声量も大きく聞き取りやすい」。ここまで具体的に書くと、受賞していないスタッフにとっては、そのまま行動の見本になる。表彰は本人へのご褒美であると同時に、店が何を良しとしているかを示す道具でもある。
三つ目は、選ぶ人を複数にしたこと。店長一人で選ぶと、どうしても自分が入っている時間帯に偏る。中間役のスタッフにも推薦してもらうと、自分が見ていない場面での働きが上がってくる。実際、こちらでは気づけなかった人の名前が挙がってきた。
賞品自体は、余った限定商品を渡した程度のものだ。金額は大きくない。それでも効いたのは、名前と理由がついていたからだと思う。発表の翌日、受賞していないスタッフの呼び込みの回数が明らかに増えていた。
ただ、この仕組みには続けるときの難しさもある。回数を重ねると、どうしても同じ面々に賞が集まり、一度ももらえない人が固定されていく。そこで、賞の種類を都度増やすことにした。接客だけでなく、製造・補充・清掃といった部門別に広げれば、表に出にくい働きも拾える。表彰を続けるとは、選ぶ作業を続けることではなく、見る角度を増やし続けることだと思っている。
💡 一歩進んだ視点
カーネギーは『人を動かす』の中で、人が最も強く求めているものの一つは「重要感」だと書いている。自分は価値のある存在だと感じたい、という気持ちのことだ。そして、それを満たす方法として挙げられているのが、心からの評価を具体的に伝えること。
表彰の仕組みを作ってみて実感したのは、まさにここだった。「よく頑張っているね」では、重要感は満たされない。何を、どの場面で、どう良いと思ったのか。具体的であるほど、受け取る側は「ちゃんと見てもらえていた」と感じる。
逆に言えば、具体的に書けない表彰は、こちらがその人を見ていない証拠でもある。賞をつくる作業は、実のところ、自分がスタッフをどれだけ見ているかを試される作業でもあった。
🌟 まとめ
- 順位ではなく種類にする。賞の名前を一人ずつ変えると「誰が一番か」の構図が消える
- 受賞理由を具体的に公開する。受賞していない人にとっては、そのまま行動の見本になる
- 選ぶ人を複数にする。店長一人だと、自分が見ている時間帯の働きしか拾えない