
📍 シチュエーション
売上が伸びない日だった。原因が声出しの弱さにあることは、自分でも分かっていた。
通路の向こうから見ていた上司に、こう言われる。「なぜ今、注意しないのか」。
その時、私は別のスタッフの指導中だった。話を途中で切り上げて、注意しに行くべきなのか。判断がつかず、結局その場では動かなかった。そして次の機会も、その次も同じだった。動けないまま、指摘だけを受け続けるパターンが続く。
もう一つある。退勤時刻を過ぎてもおしゃべりしながら作業を続けているスタッフがいた。言うべき場面だ。ただ、上司と同時にそれを見てしまった。その状況で強く言えば、本人には「上司の手前で叱られた」としか残らない。結局、軽く退勤を促すだけにした。
これは店長だけの話ではないと思う。先輩が後輩に注意する場面でも、社員が見ている前だと同じことが起きる。言うべきことは分かっているのに、誰かに見られていることで動きが止まる。立場が違っても、あの止まる感覚は同じはずだ。
❌ よくあるNG対応
- 見られているから、その場ですぐ言う
一番やってしまいがちな形だ。注意の中身が正しくても、相手に残るのは内容ではない。「あの人の前で叱られた」という記憶だけが残る。次から、その上司がいる日に萎縮するようになる。 - いつもより強く言う
上司の目を意識して、普段より語気を強める形。スタッフは、基準が変わったことをその場で見抜く。「この人は、見られている時だけ厳しくなる」と分かった時点で、それ以降の指導は聞き流される。一度失った基準の一貫性は、簡単には戻らない。 - 何も言わずに流す
私がやったのはこれだ。上司からは動かない人に見え、スタッフからは黙認されたと受け取られる。両方から信用を落とす、いちばん損な選択だった。
✅ 店長(SM)目線の推奨対応
分けて考えるようにした。注意する「内容」は上司の指摘に従う。ただし「タイミング」は自分が持つ。
上司が指摘しているのは、たいてい内容の方だ。「今すぐ行け」は手段であって、目的ではない。だから内容には従う。そのうえで、いつ言うかは現場を見ている自分が決める。
そして、これが一番の反省なのだが、動けない時は、動けない理由を口に出すようにした。
「今、別のスタッフの指導中なので、切り上がり次第行きます」。
たったこれだけだ。以前は言えなかった。反論に聞こえるのが怖かったからだ。ただ、黙っていたせいで「判断していない」と見られていた。実際には判断していたのに、伝えていなかった。毎回同じ指摘を受け続けた原因は、こちら側にあった。
上司と同時に見てしまった場面については、その場で言わない代わりに、必ず後で一対一で拾うことにした。時間を置いても、伝える内容は変えない。変えるのは場所だけだ。
その後どうなったか。正直に書く。
解決していない。今も同じ場面は起きるし、指摘も受ける。
ただ、変わったことが一つある。「なぜやらないのか」が「じゃあ、いつやる」に変わった。判断していることが伝われば、話す内容が変わるということだと思う。
💡 一歩進んだ視点
カーネギーは『人を動かす』の中で、人の顔を立てることの大切さを繰り返し説いている。相手が間違っていても、人前でそれを暴かない。誤りを認めさせることと、恥をかかせることは別だ、と。
上司に見られている場面で難しいのは、同時に二人の顔を立てなければならないところだ。上司の指摘を無視すれば上司の顔が潰れ、その場でスタッフを叱ればスタッフの顔が潰れる。
だから、内容とタイミングを分けるしかなかった。内容に従うことで上司の顔は立つ。タイミングをずらすことでスタッフの顔も守れる。どちらかを選ぶ話だと思っているうちは、ずっと動けなかった。
🌟 まとめ
- 内容は従う。タイミングは自分が持つ。この2つは分けられる
- 動けない時は、動けない理由を口に出す。黙っていると、判断していないと見られる
- その場で言わない代わりに、必ず後で一対一で言う。時間は変えても、内容は変えない
- 見られている時だけ基準が変わると、その後の指導が全部効かなくなる
動けなかったのではなく、伝えていなかっただけだった。





